SLEの治療薬 ヒドロキシクロロキン(商品名:プラケニル)と網膜症
ヒドロキシクロロキン(商品名:プラケニル 以下 プラケニル とだけ書きます)はSLE(全身性エリテマトーデス)にとても有効なお薬です。(コロナにも一時期使われていましたが、効果なしということで、今は使われていないと思います。)
プラケニルは長期に使用していると副作用としてヒドロキシクロロキン網膜症を発症することがあります。頻度は少ない(15年服用して10%)ものの発見が遅れると、異常を自覚してからプラケニルを中止しても、ヒドロキシクロロキン網膜症が進行し、黄斑萎縮になって機能的失明に至るようです。目以外には副作用が生じないそうです。
網膜症の副作用が生じると、初期には自覚症状が発現する前に、中心視野に輪状の視野感度低下を認めたり(アジア人では周辺部の視野に欠損が生じるケースも多いそうですが)、OCTで黄斑部周囲のEZの欠損生じます。注意深く我々眼科医は確認することが必要です。
プラケニルの服用を中止しても1年くらい視野欠損は進行するし、目の副作用が生じた場合、不可逆性なので、累積投与量が一定程度を超えたら、半年ごとに、OCT、視野、視力、色覚 などの検査をフォローアップしなければなりません。
日本ではプラケニルによる副作用でかつて視覚障害が多発し、被害者の会が結成され、国と訴訟になり、1974年に発売中止になったそうです。海外では使用されているものの、日本ではしばらく使用できない状況になっていました。安全性と有効性が確認されたため、2015年から日本でも再度発売された、という経緯があります。
ところが、このプラケニル、 SLEの特効薬として使用されているものの、45%くらいの患者さんが眼科に通院していないそうです。
総合病院の眼科がとても混雑してしまうことも原因かもしれません。また、患者さんとしては、全く目の副作用の自覚症状はないものの、何種類もの眼科検査を定期的に受けるのは、時間的にも費用的にも負担感があるために眼科の定期検査から足が遠のいてしまうのかな、と思います。(この点、コンタクトレンズや単純糖尿病網膜症の定期検査と通じるものがあるように思います)。
プラケニル開始後の数年はほとんど副作用が生じないものの、目の自覚症状が出てからプラケニルを中止しても、ヒドロキシクロロキン網膜症は進行してしまうので、眼科医としてはきちんとフォローアップしてゆく工夫をしなければなりません。ヒドロキシクロロキン網膜症はほどんどの眼科医が実際に診断したことはないと思います(5年くらい前に初めて私もヒドロキシクロロキン網膜症という病気があることを知りました)。
プラケニルはSLEの病状改善にとても良いお薬で、できれるだけ継続したいケースも多いようです。
OCT、視野、視力検査、眼底検査、色覚検査 など様々な検査項目がありますが、検査結果を総合的に正しく評価して、15年服用すると10%の患者さんに出るという、ヒドロキシクロロキン網膜症の兆候を見逃さないように、かつ過剰診断することないように、勉強してゆきたいと思います。機械の進歩もあり、OCT所見を重視する流れのようです。
先日、三重大学の眼科の教授 近藤 峰生 先生の講演(ヒドロキシクロロキン網膜症のお話もあり)をお聞きして、なおかつ、直接質問させていただくことができる機会がありました。ラッキーでした。
この場で、勝手に、感謝申し上げます。